ユリは、人とのかかわりがとても深い花です。
たとえば、美しい日本の女性を称える「立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は百合の花」
の言葉も知られているように、ユリの花は古くから日本の文化に根付いていますし、ユリの花を愛し、またその文化に深く取り込んできたのはヨーロッパやアメリカも同じです。
そしてユリとは、東西文化の架け橋となった花でもあるのです。
この記事では、人とユリとのかかわりを中心に、代表的なユリの品種や花言葉についても解説します。
「ユリ科ユリ属に分類される植物」という学術的な説明を超えて、ユリという花の全体像をふくらませていただくことをめざしています。
ユリとは、多彩で美しい
日本を代表する花
「ユリ(百合)」の語源には、花が風に揺れる姿を「揺り(ゆり)」、鱗状に重なり合った球根の形を「寄り(より)」といったことや、古事記に登場する伊須気余理売(いすきよりひめ)の「余理(より)」に由来するなど諸説あります。
ユリは世界中で愛されている花ですが、原種の分布はアジア地域が中心で、その数は100種類以上。
交配種(園芸品種)を含めると世界には約130種のユリが咲き誇っています。
花が開くのは5月から8月にかけてが一般的で、小ぶりなものから大輪のもの、筒状や漏斗、反り返って咲くものや、その向きも上向き、下向き、横向きなどさまざまです。
葉は笹のような形状のものが多く、日本固有種のササユリは、葉の形がその名の由来です。
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ユリと日本文化。
その美しさは世界を魅了した
日本では古代からユリはよく知られた花でした。
大伴家持が詠んだ「あぶら火の光に見ゆる吾がかづらさ百合の花の笑まはしきかも」など、
「万葉集」にはユリの花を詠んだ歌がいくつも収められています。
中世の日本では、花鳥画や工芸品などにユリの花が盛んに描かれ、江戸時代に入ると栽培も進みました。
江戸後期にはドイツ人の医師シーボルトらの手によって日本のユリがヨーロッパにも渡りました。
明治期に入るとユリの球根は欧米への重要な輸出品となり、外貨獲得に貢献しました。
きっかけとなったのは、明治政府が初めて公式に参加した1873年(明治6年)のウィーン万博です。
日本のユリの美しさは賞賛を浴び、世界的に注目されました。
現在、世界で園芸品種として流通しているユリの多くがアジア地域、特に日本産の自生種から交配によって作出されたものです。
では、世界を魅了してきた日本のユリには、どのような品種があるのでしょうか?
“ユリの宝庫”
日本に自生する品種の数々
固有種(野生種)を含め、日本には15種類のユリが自生しています。
ここでは、それぞれ特徴の違う3種類のユリをご紹介します。
テッポウユリ
鹿児島県の屋久島から沖縄県の南西諸島にかけ、日当たりのよい海岸部の崖などに自生しています。
白い漏斗状の花が横向きに咲き、その姿が「ラッパ銃」に似ていることから名付けられました。
花束やフラワーアレンジメントでたいへん人気のある花で、「純潔」「甘美」「威厳」などの花言葉を持っています。
スカシユリ
東日本の海沿いの地域に自生しています。
赤褐色の斑点を持つオレンジ色の花が上向きに咲きます。
花びらの間に隙間があり、その特徴が名前の由来でもあります。
日本海側ではイワユリ、太平洋岸側のイワトユリと呼ばれることもあり、近縁種のエゾスカシユリは青森県の北端から北海道、千島・樺太地域にかけて分布しています。
カノコユリ
九州や四国に自生。台湾や中国南東部にも分布しています。
花びらは大きく反り返り、下向きに咲きます。
花はピンク色で、鹿ノ子絞りを思わせる紅色の斑点が特徴。
学名の「Lilium speciosum(リリウム・スペキオスム)には“美しいユリ”の意味があります。
鹿児島県の甑島(こしきじま)は、カノコユリの群生地として知られています。
その他の日本のユリ
日本固有のユリには、ヤマユリ、ササユリ、サクユリ、ヒメサユリ(オトメユリ)、ウケユリなどがあります。
ヒメユリ、オニユリ、クルマユリなどもよく知られたユリです。
鹿児島県の口之島に原生していたタモトユリは、乱獲により野生の種は絶滅してしまいましたが、その子孫は交配により人気品種のカサブランカにつながっています。
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では、西洋の文化では、ユリはどのような存在なのでしょうか?
ユリと西洋文化。
聖なる白さは純潔の象徴
古代ギリシアでは、ユリは、神話に登場する花です。
生まれたばかりの英雄ヘラクレスが、全能の神ゼウスの策によって女神ヘラの「不死の母乳」を飲もうとしたとき、宇宙に飛び散ったしずくは天の川になり、地上に落ちた乳は純白のユリの花になりました。
エーゲ海に浮かぶクレタ島のクノッソス宮殿の壁画にはユリの花が描かれています。
古代ローマでは、ユリの球根をすり潰し、兵士の傷を癒やす薬に用いたといいます。
薬用としての用途は、ローマ軍の侵攻とともに欧州各地に広がりました。
その純白で清楚なたたずまいから、キリスト教では純潔、特に聖母マリアを象徴する花となりました。
マドンナリリーと呼ばれる欧州原産のユリがそれです。
天使ガブリエルがマリアに神の子イエスの受胎を告げる「受胎告知」という画題は、レオナルド・ダ・ビンチはじめ名だたる画家たちが手がけましたが、純潔の象徴としてきまって描かれているのがユリの花(マドンナリリー)です。
やがて西洋文化は、日本をはじめとする東洋のユリと出会い、ユリへの想いをますます深めます。
ユリは往古から、東西の文化をつないできた花なのです。
ユリへの想いが生み出した
多彩な交配品種
花屋や園芸店には、交配によって生まれた園芸品種のユリが花盛りです。
東洋のユリをベースにヨーロッパやアメリカで誕生した、現在人気のある3種の交配種(園芸品種)をご紹介します。
カサブランカ
「オリエンタル・ハイブリッド」系と呼ばれる交配種系の代表的な園芸品種で、「ユリの女王」とも呼ばれる人気のユリです。
そのルーツは日本原産のカノコユリとヤマユリ、及びタモトユリです。
その交配と改良により1970年代に誕生し、たちまち世界的ブームを起こしました。
特徴は大輪の花を咲かせることと、その白さ。
花びらに斑点がなく、花の白さがきわだちます。
スターゲイザー
カノコユリとヤマユリをベースとする、「オリエンタル・ハイブリッド」系の園芸品種で、カサブランカに近い出自のユリですが、印象的な濃いピンク色の花は、純白のカサブランカとは対照的です。
花が上向きで開くのが特徴で、英語で“空を見る人”を意味する「Stargazer」から名付けられました。
コネチカット・キング
アジア産のユリが元になった「アジアティック・ハイブリッド」系の代表的な品種です。
斑点のない黄色の鮮やかな大輪の花をつけ、花びらの基部はややオレンジ色を帯びています。
花つきがよいので、ガーデニングでも人気の花です。
ユリの花言葉は
「純潔」「無垢」「威厳」
これまで見てきたように、ユリには特徴もさまざまな多彩な品種があります。
それは花言葉の豊富さにも表われています。
ユリの最も一般的な花言葉は「純潔」「無垢」「威厳」です。
「純潔」と「無垢」は、キリスト教の聖母マリアの逸話(マドンナリリー)に由来し、
「威厳」はその堂々としたした花姿からといわれています。
なお、「純潔」については、日本語の訳語として「純粋」の言葉が当てられることもあります。
合わせて覚えておきましょう。
色や品種でも違うユリの花言葉
「純潔」「無垢」「威厳」の3つに加え、色や品種ごとにも違った花言葉を持っているのがユリという花のユニークなところです。
以下、代表的な「色」「品種」ごとに、ユリの花言葉をご紹介します。
ユリの花言葉(色別)
- 白いユリ
「無邪気」「高貴」「自尊心(誇り)」「栄華」
- 黄色いユリ
「陽気」「不安」「偽り」
- 赤・ピンク色のユリ
「虚栄心」「富と繁栄」
- オレンジ色のユリ
「愉快」「華麗」「軽率」
ユリの花言葉(品種別)